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特別教室などがある管理棟を歩いて、吹奏楽の楽器の音や合唱の歌声を聴き流す。
日も傾き、廊下を照らす夕日の赤は哀愁を感じさせるだけでなく今の虚しさをも助長させた。
「夕日がキレイだぜ……」
ふと前方に続く廊下の先に怪しい女子生徒を見つけた。隠れるように屈んでいるその女子生徒はある教室をこっそり覗いているようだ。
静かにゆっくりと近づいて肩を叩くと、びくっと体をこわばらせてぎくしゃくした動きで振り向いた。
「あ! 釘バットむ……むぐ!?」
「しー!」
いきなり口を塞がれ、静かにしろと唇に人指し指をあてて注意してきた。
釘バット娘はそろっと教室を覗き、中の様子を窺う。
俺も一緒に中を覗くと、美術室であるその教室に一人で油絵を描いている男子生徒がいた。
余程集中しているのか、こちらには気づいてないようだ。
よく見たら同じクラスの昭島彰太だった。
ゆっくり釘バット娘の手を外し、小さい声で尋ねた。
「昭島に用があるのか?」
「し、知ってるの?」
「ああ、クラスメイト。あいつっていつもああなのか?」
昭島は一人で静かに、少し寂しそうな表情で油絵を描いているのだ。クラスの中でもほとんど目立たない奴だ。
と、そこで疑問が浮かんだ。
何故、釘バット娘がここにいる?
「ここにいる時は大抵あんな顔してる……」
寂しそうな、でも少し頬を赤らめて話す釘バット娘はまるで……
「恋する乙女……?」
そう言った瞬間、顔を真っ赤にし出したので正解なのだろう。
そこでちょっと思いついた。
「……俺が仲人になってやるよ」
にやっと笑い、釘バット娘の制止を振りきって美術室に入る。
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