0人が本棚に入れています
本棚に追加
入れ替わるように彼が窓辺に近付き、椅子を引き寄せると煙草に火を点ける。
座りながら煙を目で追う姿に微笑みつつ、部屋に備え付けられている洗面所へと向かうと、蛇口をひねった。
「……っ!」
息を飲んだ。出てきた水の色が真っ赤だった。しかし、やがていつも目にしている透明になると、何事もなかったように流れ続ける。
釈然としない気持ちのまま恐々と手を洗い、部屋に戻ると彼の声が届く。
「どうした? 顔色悪いけど?」
今、見た事を伝えると彼は笑いながらも、優しく教えてくれる。
「余り使われてないと水道水に錆が混ざる事があるらしいよ。しばらく流しておけば大丈夫だと思うけど、もし嫌なら外の共同洗面所を使えば?」
このプチホテルは洗面所兼シャワールームは各部屋にあるけれどトイレはなく、お風呂は貸し切り出来るのを交代で使う事になっている。
団体客や家族連れ対策の為か部屋の外にも大き目の洗面所があり、その側に共同トイレも設置されていた。でも何故か、そこも何とも言えず嫌な感じがした。
最初のコメントを投稿しよう!