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曇天の空。太陽が雲に隠れ、光はない。暗い森の中、少女が座り込んでいた。齢十弱の体躯でありながら、比較的に細身で、秋空には不相応な薄着、申し訳程度に首に巻いた大きなマフラーをしている。唯一特出すべき点は、今の風貌には釣り合わない綺麗な靴を履いていること。
「さむぃ……」
三十分ほど歩き続けて、少女は何度目かの独り言を呟いた。
少女がいるのは、出身村の最も危険な森で、狂暴な森の守護者が住んでいると噂されていた。その森の入り口付近に連れてこられ、両親に捨てられたのだ。
少女には先天的に魔力がなかった。それだけだが、この世には十分なほど異端な目で見られる理由になる。
少女は国の中心部から少し離れた街の領家の長女として誕生した。魔力がないと判明しても一人娘を捨てるわけにもいかず、両親は遠巻きだが僅かに譲歩しつつ面倒を見た。しかし弟が生まれ、娘などまるでいなかったようにあっさりと捨てた。
悲しいと思ったが、名残惜しさはない。それよりもこれからどう生きるかを冷静に考えていた。
死ぬかも……。
それでも最低限の生きる努力をしようと思った。一日でも長く、自分の力だけで生きてみよう、折角あの狭小な家から出れたのだから。もう自由なのだから。
突如、大きな影が少女を覆った。
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