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左目だけの表情で、翔は精一杯笑ってみせる。
「僕はもう父さんの事は気にしてないよ。もう10年も前の話なんだし。そりゃあ、忘れた訳じゃないけどね」
翔は無意識に、右手で眼帯に触れていた。
光を失った自身の右目を労わるように触るその仕草は、探偵業を始めてから、深い思考の海へと潜る時に、そして、今は亡き父を想う時に出る癖のようなものだった。
真白な指先で、真黒な眼帯を覆いながら言葉を紡ぐ。
「そもそも、父さんの事を引きずっていたら、この探偵事務所だって引き継いでないよ。信さんの方が気にし過ぎなんじゃない?」
少し肩をすくめ、おどけたように笑う。
だが、それは翔の本音だった。
10年前に父、広行を亡くし、その1年後に後を継いでアイザワ探偵事務所代表となった。
17歳の未熟な探偵は、ただただ尊敬し、敬愛していた父の足跡を辿ることに必死だった。
見ていて痛々しいほどがむしゃらに、父の背中を追い掛ける翔を支えたのは、他ならぬ辻本だ。
相沢 広行と旧知の仲であった警察官は、その息子である翔に自身の家族のように接してくれた。
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