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辻本からの今に至る長年の愛情に、翔は心から感謝していた。
それ故に、辻本の心情や自身に対しての行動理念が、広行に対しての使命感や義務感、所謂プレッシャーのようなものから来ているのではないかと、そう思っていた。
「もう10年経つんだよなぁ。俺はあの時、お前がこの事務所を継ぐって言った時、本当に嬉しかったんだ。あぁ、やっぱこいつは広行さんのせがれなんだなってよ」
辻本は照れ隠しなのか、少し大げさに両手を広げてみせる。
「今までこんなこと言ったことねぇが、俺は翔、お前に感謝してるんだ。兄貴みてぇに慕ってた広行さんが死んじまった時、他に家族と呼べる人間がいなかった俺に、弟みてぇに接してくれるお前がいた。今じゃ家族はお前だけだよ」
今になってこんな話をするとは思わなかった、と言うようにやれやれと首を振る兄貴分。
それを見た弟分は、少し驚いたように片目を見開き、すぐに整った顔を崩して笑った。
「はやく結婚しなよ」
「うるせぇよ。っと、もうこんな時間か。そろそろ戻らねぇとな」
笑いながら悪態を吐き、大男は立ち上がった。
ピンポーン。
その時、事務所に来客を知らせるベルが鳴る。
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