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一話【普通の終焉】
ガラガラガラと玄関を開ける音と共に、一歩外へ出る椿。
空を見上げ、そよ風を体に受ける。
「いい天気…まさに小春日和、かな…」
ふふ、と椿は笑うが、すぐに地面に視線を落とした。
『……姉さん…今、何処に居るの…?あたしを置いて…何処に……』
数年前に行方不明になった姉、牡丹を思い、拳を握った。
何故、牡丹の手を放してしまったのか、と。
『椿…今日も、いいお天気ね……。ほら…早くしないと、学校、遅れちゃうわよ…?』
ふと何処からともなく、囁く様に、優しい声が聞こえた。
「姉さん…!?……まさか、気のせいね……それより、本当に遅刻しちゃう…」
それは、牡丹の声にとてもよく似ていた。
突然の姉の声に、始めは驚いた様子だったが、その後は、僅かに苦笑いをする椿。
「早くしなくちゃ…!…それじゃあ、行ってきます…」
その椿の言葉は、誰かに云う様に。
そして玄関を閉め、学校へと走り去った。
その様子を、金色の髪の男が木の上から見ていた。
「…ふむ…中々、いいかもねぇ?」
その金色の髪の男は、誰にでもなく、呟く様に。
だが、僅かに楽しそうに笑った。
――時は夕刻。場は学校へ移動。僅かに響くチャイムの音。
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