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「………判り、ました…」
少しの間を置き、淡々と椿は男に頷く。
男の表情が一気に明るくなる。
「よーし、話は決まった!さ、行こうか、椿ちゃん♪」
男は心底嬉しそうに言った。
そして手を椿に差し出す。
「…何で、あたしの名前…」
一体この男はどこまで自分を知っているのだろう、と椿は思った。
「気にしない気にしなーい。さ、行こう♪」
男は白を切る用に告げ、にこり、と笑う。
「…ねぇ、あの子…」
「変な子よねぇ…?」
通りすがりの人たちがボソボソと話す。
「あれ?椿ちゃんってば、もしかして人気者?」
キョロキョロと辺りを見渡しながら男は笑って首を傾げる。
「…貴方のその格好に、皆反応してるんじゃないんですか?」
椿はあくまで冷静だった。
男の格好は、何処か浮世離れしていたのだ。
「へ?俺?いやいやいや、ありえないって!」
手を横にぶんぶんと振りながら男は笑う。
「何を根拠にそんな自信…」
椿は怪訝そうにつぶやく。
「いや、だってね?俺の姿、椿ちゃんにしか見えない筈だから」
さらっと男は告げた。
「……は!?何それ!!?」
一瞬の沈黙。
椿は驚いた声を上げた。
「俺等みたいのは、救世主に選んだ人物にしか姿が見えない様になってるんだよ。だから、椿ちゃんにしか見えない、って訳♪」
軽い口調で男は言う。
「…悪ふざけもいい加減に…!」
椿は多少の怒りを持った様子で言いかける。
「…あの子、頭がおかしいのかしら?」
「そうねぇ…独りで百面相みたいな事して…」
『…まさか…この人の云ってる事、本当なの?じゃあ…あたしってば、凄く変な人に見られて…?』
周囲の声は、男が言っていることを肯定しているものだった。
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