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「椿ちゃーん?」
男は黙り込んでいる椿に首を傾げながら声をかけた。
「…っ…ちょっとこっちに来て!」
椿は慌てた様子で、男の手を掴み走り出す。
とにかく今は、ここから離れなければ、と。
「へ?ぅわっ!ちょっと、椿ちゃん!!?」
男は驚きの声を上げるが、椿はお構いなしで走った。
人気のない場所まで走ってきた二人。
椿は軽く息を乱していたが、男は平気なようだった。
「椿ちゃんってば…一体如何したのさ?」
男は状況が読めない、という感じで首を傾げていた。
「貴方の姿、他の人に見えないんでしょ?それなのにあんなに人目のある所で話してたら、あたしがおかしい人みたいじゃない!」
息を乱しながら椿は言う。
そう。
周りから見たらひとりごとを言っているだけなのだから。
「…成る程。其れで皆、椿ちゃんの事見てた訳だ?」
あぁ~、と納得したように男は頷く。
「…あー、もう…!一体あんた、何者な訳!?」
怒った様子で椿は男に問う。
「俺?俺は只の魔法使いだよ♪」
男は心底楽しそうに言った。
魔法使い、と。
「……はぁ…聞いたあたしが莫迦だったわ…」
椿には失笑しかできなかった。
今時魔女だの魔法使いだの…何を言うのだろう、この人は、と呆れていて。
「さーて、そろそろ、いこうかー♪……七色の光、路を作らん…テレポート!」
男は楽しそうに言って指を回した。
辺りを七色の光がつつむ。
「…え?ちょ…っ…!眩し…っ…!」
椿は驚き目を閉じてしまった。
同時に、意識も失ってしまって。
「…ちゃん……椿ちゃん!」
呼び起こすように男の声が響く。
「っ…?…此処、は…?」
椿は声に目を覚ました。
先ほどまでとは違う場所。
其処は今まで見たことのない場所だった。
「此処は13の支配する世界。俺等の住む世界だよ」
「13の、支配する世界…?」
男が言えば、椿は首を傾げる。
そんな世界、聞いたことがない。
「詳しい説明は後。とりあえず、部屋に案内するね?さ、こっちだよ」
「え?あ…はい…」
誘導するように男は優しく言う。
椿は頷き、立ち上がった。
先を歩く男に、ゆっくりとついていく椿。
歩きながら椿は、
『変な事に…なっちゃったな…』
と、心の中で思っていた。
一話、終了。
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