透明になりたくて

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 落とし穴にはまった間抜けな人物みたいじゃないか。  外を見れば、いつの間にか星が瞬いている。俺は半ば据わった目をしながら、透明解除を願いまくった。楽しい思い出はできたが、なにか違うのだ。  そして、気がつけば朝になっていた。目が覚めれば、なぜか救急隊員の人がいる。間抜けな格好のまま、俺は助けを求めた。階下の人はきっと天井から足が生えていてびっくりしただろうな。 「助けてください」  こんな戻り方ってあんまりだと嘆きながら、不可解な俺の透明事件は幕を閉じることになる。きちんと世界に存在しながら不幸な目に遭うのと、意味のわからない現象に巻き込まれるのは、どちらがマシなんだろうか。 「お兄ちゃんよ。ぶつかったらごめんだけですむわけねえよな?」  あ、今はすごく透明になりたい。切実に自分の透明化を祈りながら、俺は青い空を見上げた。
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