透明になりたくて

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 素直に答えたのにひどすぎる。勝手に取られた財布には、こんなこともあろうかとカードなど入れていない。小銭だけの財布に舌打ちされ、へらりと俺は笑う。  不良によっては、哀れみの目を向ける人やなぜか奢ってくれる人もいた。今回は、苛立ちながらも去っていくパターンのようだ。  服についた土を叩いて落とすと、投げ捨てられたボロ財布を拾う。 「痛っ、力加減しろよ」  俺はきっと不幸の下に生まれたに違いない。  鳥にフンをダイレクトに落とされるし、行列に並べば完売する。電車が人身事故で止まれば、渋滞から抜け出せずに苦しむ。遊びに行けば、閉園していたり、唐突な休館日だったりする。  一番ひどいのは、無関係なのに修羅場に巻き込まれたことだろう。俺を犠牲に仲直りする恋人たちの姿に、感動などではなく心の痛みで涙が零れた。
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