572人が本棚に入れています
本棚に追加
会場の中は、笑い声や、陽気な音楽が響いて耳が痛いほどだったのに。
一歩外へと出ると、無音だった。
ペイズリー柄のじゅうたんがはめ込まれた床を駈けても靴音は立たない。
ふと、ガラス張りの壁へと視線を向けると、
見事な春を演出した庭園に気づいた。
淡い桃色のサクラの木は、
全ての枝に淡雪を積もらせたかのようだ。
誘われるようにして、桜を閉じ込めた壁へと近づく。
「佐藤舞さんだね?」
と、凛とした響きのある声へと振り向いた。
真っ直ぐな鷲鼻に、吊り上がったネコのような瞳の男を見上げた。
小栗よりもずっと高い場所から私を見下ろしている。
最初のコメントを投稿しよう!