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今日も夜は接待だ。
一週間前に冬也と行ったあの中華料理屋に再び足を運んだその日、接待が終わったのは夜の十時だった。
酒を呑み相手を良い気分に酔わせて、世辞を並べ機嫌をとる。
まるで機械のように任務をこなした後は、長引いている風邪のせいか早く家に帰って眠りたかった。
あの日と同じ道を、駅に向かって歩いて行く。
黒猫の事なんて忘れていた。
それなのにふと思い出したのは、あの日と同じ場所に黒猫のような男が座っていたから。
黒いパーカーに黒いパンツ。
黒い髪に日本人離れしたその顔付き。
立ち止まって見つめていた俺に近付いて来るその男の目が、
月の光に照らされて金色に輝いたように見えた。
「織部…………氷刀(ひめ)さん?」
少し低めのよく響く声は、スッと空の暗闇に抜けて行く。
金色の目が細くなり、三日月のように弧を描いた。
ニッと微笑んだ大きめの唇から、微かに弾むような声色が漏れる。
「黒猫です。恩返しに来ました」
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