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恩返し。
一瞬頭が回らず眉間にシワを寄せたままでいると、男は嬉しそうに微笑んだまま俺の頬に手を触れる。
「一週間前……ここで黒猫を助けてくれましたよね?」
「…………」
確かに、拾った。
汚れてびしょ濡れになった黒猫を。
助けた?
ということは、アレはあの後助かったのか。
確かに受付で名前と電話番号、そして住所までもを書かされたが、それで俺の名前を知っているんだろうか。
長い指が頬を何度も這い、ふとその行為の違和感に気付いてパッと手を払う。
「助けたつもりはない。夢見が悪かったから病院へ持って行っただけだ」
特に感情をのせずに視線を向けると、男はまたふわりと微笑む。
「それでも、あの猫が……僕が助かったのは事実ですよ、氷刀さん」
ーーーーーー。
………………は?
いまこいつは、自分の事をあの時の……猫だと。
そう、説明したのか?
「ふふ、怖がらないで氷刀さん。猫の恩返しです、昔話でもあるでしょう?」
「それは鶴の恩返しだろう」
「あ、違った。ほら、ジブリですよ、猫の恩返し」
「…………」
ジブリ?
そんなもの、見た事があるわけがない。
というか、これは何の話だ?
この男。
人をからかっているのか?
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