364人が本棚に入れています
本棚に追加
「氷刀さん、起きて。朝だよ?」
まどろむ意識の中で、左の耳から言葉が聞こえた気がした。
そして、その次の瞬間には自分の呼吸がどこかに飲み込まれて行く。
息、が。
でき、なっ……
「~~~~ッ、ん!っはぁ、あ、んぅ」
舌が絡み合う音が脳を刺激し、一気に意識が覚醒した。
そして激しくキスをされていることに気付き、もがく様にしてロイクの体を押し退けようとする。
けれど、力の差は最初のキスで嫌というほど思い知っている。
「ーーーーっん、ぁ、っ……っふ……」
頭の中が逆上せ上がるほど深いキスが続き、やっと解放された頃には息も絶え絶えで目尻には涙が滲んでいた。
「氷刀さん、おはよ」
「っはぁ、はあ、はあっ……殺してやるこの化け猫」
そう言って睨むと、ロイクは嬉しそうに笑いながら立ち上がる。
「朝食出来てるよ」と最後に投げ掛けた後、弾むように部屋から出て行った。
「っ……クソ……今日もこれか……」
あの、自称・黒猫だと言い放つ小峰ロイクがウチに住み着きだしてから、すでに一週間が経とうとしていた。
全く出て行く素振りがない。
そして毎朝、先ほどのように激しく深いキスで俺を起こしに来る。
一体あいつは何なんだ?
化け猫だなんて本気で思っちゃいないが、普通の人間とは考えられない。
やる事なす事が俺の理解の範疇を超えている。
あんな摩訶不思議で奇妙な人間、例え猫だと言われてもおかしくないような気にさえなる。
最初のコメントを投稿しよう!