364人が本棚に入れています
本棚に追加
「お待たせ致しました、小籠包でございます。お熱いのでお気を付け下さいませ」
個室の引き戸をノックしてから入って来た店員は、
この重い沈黙を破るかのように爽やかな声色で喋り出す。
この中華の店はそれなりに気に入っていて、何度か仕事で使ったことがある。
いつも個室でゆったりとテーブルを回しながら食べているが、よく見れば冬也はあまり食が進んでいないようだ。
それもそうか。
俺たちは決して仲が良い訳ではない。
早くに両親を亡くした俺たちは祖父に育てられた。
Love is allがモットーだった祖父の性格は、おじいちゃん子だった冬也にそのまま引き継がれたらしい。
正反対に小さな頃から現実主義者だった俺は、そんな二人の思想に全く共感出来なかった。
馬鹿馬鹿しい。
愛なんて。
脆くて移ろいやすいものに価値など全くない。
「とにかく俺は、結婚なんてしない。返すよこれは」
その言葉の最後に数枚の台紙がこちら側の机へ投げ捨てられ、冬也はサッと席を立った。
「……あんたはそれで、幸せなの?」
その言葉の意図するものが何なのか。
数秒俺の顔を見た後、冬也は振り切るように部屋を出て行ってしまった。
最初のコメントを投稿しよう!