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冬也が出て行った後、ゆっくりと食事を堪能し終えた俺は店の外に出た。
強く降り付ける雨が地面の上を流れて行く。
傘を差した所である程度は濡れてしまうだろうと考え、足早に駅へ向かった。
五分ほど歩いた所で、歩道と道路のちょうど境界の部分に視線がとまる。
そこに落ちている物体を数秒眺めた。
真っ黒。
雨に濡れてびしょびしょになっているその物体は、微かに動いているようにも見える。
それが何かを確認しようと思い、数歩そこに近付いた。
猫、だ。
黒猫。
車に引かれたのか、グッタリと横たわっている。
時折ピクリと頭や足を動かしては、また静かにその動きを止める。
どうせすぐに死ぬだろう。
そう思いさっさと駅へ向かおうと足を一歩踏み出した。
けれど。
ふと。
先ほどの店で冬也に言われた「人でなし」という言葉が、何故か脳裏にサッと過る。
こんな事はハッキリ言って珍しい。
死に損ないの猫なんて、普段の自分なら完全にそのまま放置していただろう。
けれど、今は何故か、夢見が悪いと思ってしまった。
愛だの何だの抜かす冬也のおかげで、調子が狂ったか。
小さく溜息を吐くと、そのまま腰を下げて右手を差し出す。
真っ黒な猫を抱きかかえた瞬間、スーツにじわじわと水分が染み込んで行くのが分かった。
全く、らしくない。
自分で自分に呆れながら、そのまま駅に向かいタクシーを捕まえた俺は、動物病院へ向かった。
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