勝利の先

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「勝利」 勇者がポーズを決め、勝利宣言を行う戦場は水を打ったような静寂に包まれている。 みんな動揺しているんだ。 わたしを含め、みんなもムートさえも。 わたしたちと勇者の間に倒れる王国軍の兵士たち、その数、数千。 そして、それを率いて攻めてきた将も今やぼろぼろになって四肢を投げ出している。 勝った……勝った? あれだけの戦力差で? あれだけの最悪な状況下で? 勇者、たった一人現れただけで……勝ってしまったの? 「あれ。勝ったよね、俺?」  劇的勝利とは言えずとも、完全に負け戦だった戦況をひっくり返す発端となり、尚且つ敵軍の将であるレーギスを殴り倒し決着が着いた今しがた。 勝利のポーズと勝鬨。 勇者は歓声と共にみんなが駆けつけ褒め称えられることを期待していたのだが、あまりの静寂に不安になりキョロキョロと周りを見渡し始めた。 「大丈夫だよリーダー!ちゃんと勝ったよ、今回は!」 と、少年戦士が声を掛けるも、一番駆けつけてほしい魔王は未だ動かないまま。 「ぐぅっ……」  そんな中、一番聞きたくなかった声が勇者の鼓膜を叩く。 「うへぇ、しぶといなぁ。」 勇者に打ち据えられたレーギス。 彼は笑いの止まらない足でしっかりと立ち上がると勇者を睨み、後方で倒れる兵たち、そして、勇者一行とその後ろに控える魔王へと視線を送る。 「なんだこれは……なんで、こんな……ふざけんしゃねぇぞおらぁ!!」 レーギスが吠える。 体はぼろぼろ、体力はギリギリ。 それでも、それを感じさせないレーギスの声は静まり返った戦場に高々と響き渡る。 「おいおい、あんまり無理をす「立ちやがれ野郎共!!」……」 レーギスに声を掛けたのは勇者。 だが、まるで聞こえないとばかりにレーギスは怒声を被せる。 そんな、レーギスの声に王国軍の兵たちがふらふらと立ち上がる。 「貴様等はここに何しに来た!!」 それを一瞥し、レーギスは更に続ける。 「これは、面倒な事になるな。」 神官はぼそりと一人ごちる。 「貴様等の敗北は国の敗北、国民の死と知れ!」 血を流し、傷だらけの兵たちの目に戦意が点っていく。 これだけの兵力を任され、率いているだけあって兵の焚き付け方が上手い。 いや、それだけじゃない。 彼自信、立場ある人間だ。 それなりに、人徳もあるのだろう。 「これだけの戦力差!狙うは魔王一匹!一人、一撃、届けば勝ちだ!」
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