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「さっきも言ったけど。僕は誰よりも君が好き」
「武君」
幸子は顔だけ振り返った。
「何度も好きだ、結婚してくれ、って言ったけど、口からの出任せじゃなかった。いつだって本気だった……。そう聞こえなかったのは僕の言い方が悪かったからだよね。口付けしたのもそう。……僕では……だめかい? 好きになってはいけない?」
「私は……」
両手で頬を覆って、幸子も目をそらさず、かおをくしゃくしゃにして。
目の縁に涙をたくさん浮かべて、それでも彼に眼差しを送っている。
伸ばした彼の指先は、彼女の髪に、肩に触れる。
少し身じろぎした幸子に、武は言った、「逃げないで」と。
さっきも触れた彼女の肩に手を回した。
手の平の下にある肩はぶるぶると震えていた。
冷たい肩だ、とても小さくてか弱い。
あたためてやりたくて、ふたつの腕を回してくるむように抱く。
乾いた髪が鼻先をくすぐる感触に、たまらず頬擦りをした。
甘く漂う薫りと薄い浴衣越しに伝わる彼女の肢体。水で濡れた服に透けて見えたやわらかそうな膨らみが自分の胸を押す。
吐息を乗せて力を込める腕の中で、彼女は小さく「武君」と言う。
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