第1章

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「――さっき名前で」 「うん」 「呼んでくれた」 「ずっと呼びたかった」 「呼んで」 「幸子」 「うん」 「幸子」 「……武君」 「君が、大好きだ」 幸子は、初めて武の腕にしがみつき、それでも浴衣の袖をつかむのが精一杯で。でも小さな声でささやいた。 「――うれしい」 仔犬がお互いを舐め合うように頬を寄せ合ったふたりは、かすめる唇を唇で触れ、そして重ね合わせる。 彼女の唇がいつにもまして紅く濡れている。 初めて奪った時も思った、しっとりとして、濡れていて、小さくて、――なんて気持ち良いんだろうと。 感触に夢中になり、深く入り込んで絡み合い―― いつしかふたりは畳の上で身を重ねていた。 添えられた手はお互いを撫で擦る。 これは愛撫だ。 このまま抱き合っていたらただではすまない。 自制……できない。 かまうものか。 彼は熱い吐息に乗せて、好きだ、好きだと何度も耳元でささやいた。 君が欲しい、と。 間を隔てる互いの浴衣がもどかしくて、合わせ目から差し入れた指がひやりとした肌を探り当てる。触れた先から温もりを放って、しっとりと汗ばんでいく。 はだけた浴衣の襟からこぼれ落ちる豊かな乳房に息を飲んだ。たわわに実る果実のようだ。 「きれいだ」口にする声が上ずった。 初めて女性の胸元に触れ、顔を埋めた。 お互いの身体が伝え合う感触に夢中になって、止められなかった。 熱い吐息を吐息で返し、身体を合わせ、夢中になってしがみつく。 思いを遂げたい、と熱を持った己をどこへ持っていけばいいのか、幸宏はわからなかった。彼は女性の経験もなければ扱いも知らなかったので。 どうしたらいいんだろうと迷った時、彼の手に触れる幸子の指が、ここ、と彼を誘う。 一瞬、ふたりは息を詰め、彼は身を深く埋めた。 仰け反る幸子の喉が白く、喘ぐ声に乗せて上下する。 首に唇を寄せ、何度も頬を寄せ、全て取り込もうとするように頭ごと抱えて。 ぴたりと穿った。 不思議だ。 女は初めてなのに、一度知ってしまうと身体は素直に動く。 ねっとりと包み込まれる温もりの中に、幸宏は息を弾ませて耽溺し、豊満な乳房に噛みつくような口付けを何度も落とした。
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