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「――さっき名前で」
「うん」
「呼んでくれた」
「ずっと呼びたかった」
「呼んで」
「幸子」
「うん」
「幸子」
「……武君」
「君が、大好きだ」
幸子は、初めて武の腕にしがみつき、それでも浴衣の袖をつかむのが精一杯で。でも小さな声でささやいた。
「――うれしい」
仔犬がお互いを舐め合うように頬を寄せ合ったふたりは、かすめる唇を唇で触れ、そして重ね合わせる。
彼女の唇がいつにもまして紅く濡れている。
初めて奪った時も思った、しっとりとして、濡れていて、小さくて、――なんて気持ち良いんだろうと。
感触に夢中になり、深く入り込んで絡み合い――
いつしかふたりは畳の上で身を重ねていた。
添えられた手はお互いを撫で擦る。
これは愛撫だ。
このまま抱き合っていたらただではすまない。
自制……できない。
かまうものか。
彼は熱い吐息に乗せて、好きだ、好きだと何度も耳元でささやいた。
君が欲しい、と。
間を隔てる互いの浴衣がもどかしくて、合わせ目から差し入れた指がひやりとした肌を探り当てる。触れた先から温もりを放って、しっとりと汗ばんでいく。
はだけた浴衣の襟からこぼれ落ちる豊かな乳房に息を飲んだ。たわわに実る果実のようだ。
「きれいだ」口にする声が上ずった。
初めて女性の胸元に触れ、顔を埋めた。
お互いの身体が伝え合う感触に夢中になって、止められなかった。
熱い吐息を吐息で返し、身体を合わせ、夢中になってしがみつく。
思いを遂げたい、と熱を持った己をどこへ持っていけばいいのか、幸宏はわからなかった。彼は女性の経験もなければ扱いも知らなかったので。
どうしたらいいんだろうと迷った時、彼の手に触れる幸子の指が、ここ、と彼を誘う。
一瞬、ふたりは息を詰め、彼は身を深く埋めた。
仰け反る幸子の喉が白く、喘ぐ声に乗せて上下する。
首に唇を寄せ、何度も頬を寄せ、全て取り込もうとするように頭ごと抱えて。
ぴたりと穿った。
不思議だ。
女は初めてなのに、一度知ってしまうと身体は素直に動く。
ねっとりと包み込まれる温もりの中に、幸宏は息を弾ませて耽溺し、豊満な乳房に噛みつくような口付けを何度も落とした。
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