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「……ごめん」
幸宏も柄にもなく赤面した。
「足……」
「え」
「離して」
「あ、ああ」
握った足首から力を緩めかけ、幸宏は再び握り返す。
再び幸子は畳に額を打ち付けていた。
「だめ。離さない」
四つん這いになった幸子は足をつかまれたまま身をくるりと翻し、太腿まで露わになったスカートの裾を直した。
「どこへ行くの」
「行かないわ」
「うそだ、離したら外へ飛び出しちまうんだろう」
「……」
彼と目を合わさないのは、彼が素っ裸だからだけではない。
「夕べのこと、後悔してる?」
「言わないで」
「僕はしてないよ」
「お願い、武君、私は……」
「もしかしたら、一夜の過ちとか思ってる?」
「お願い!」
「思い出になんかさせない」
足を引き、身を起こして彼女にのし掛かった時、玄関のベルが豪快に鳴った。
「今行く!」
脱ぎ散らかした浴衣を羽織り、紐で腰を縛って、幸宏は大股に部屋を横切る。
その際、襖の縁から飛び出ていた釘の頭で浴衣をひっかけた。盛大に生地が破れる音がする。
「ああ、もう!」と言いつつ彼は袖を引いて玄関へ向かった。
待ち人は電報配達人だった。
文面はあっさりと「タダチニ トウコウセヨ」とあった。
前のアパートなら電話がうるさく鳴っていた。引っ越して以降、電話とは縁のない生活を送っている彼の元に連絡をよこそうとしたら電報が一番速く確実だ。
昨日の一件だろうな。
髪をバリバリとかきながら、幸宏は元いた部屋に戻る。幸子は昨晩同様壁に背を向けていた。
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