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◇ ◇ ◇
電報が届くのを見越して待っていた、呼び出した主、柊山は幸宏に席を勧める。
彼は駆け出しの講師、末端の人間だ。私的立場のうちは懇意にしてくれても学内では自分の上席。「はい、遠慮なく」と気易く言える立場にない。
「いえ、このままで」
後ろ手に手を組み、幸宏は上司と対面した。
「休みのところ、足労掛けたね」
「こちらこそ、遅くなりました」
「いやいや」
上司は眼鏡の縁を手で押し上げた。
「早速だが――昨日、談話室で起きたことに関して」
「はい」
「何か言うことはないかね」
「いえ、何も」
礼を失しないように、目礼をする。
「お耳に届くようなことをしでかしたことに対しては謝罪をします」
「君が踏んづけた彼ね」
「はい」
「顔の形が少々変わってしまって、しばらく休んで治療に専念するそうだ」
「そうですか」
「君に、謝罪と慰謝料の支払いを求めている」
「それだけ、でしょうか?」
「……今のところは、このふたつだけで私の方で止めている」
「――ご迷惑をおかけしました」
再度、幸宏は頭を下げた。
「怪我をさせたのは僕ですから、それ相応のことはします。治療費は掛かった分請求していただければ」
「うむ」
「しかし」
「うん?」
「支払いと引き替えに、僕も先方に謝罪を要求します」
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