第1章

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◇ ◇ ◇ 電報が届くのを見越して待っていた、呼び出した主、柊山は幸宏に席を勧める。 彼は駆け出しの講師、末端の人間だ。私的立場のうちは懇意にしてくれても学内では自分の上席。「はい、遠慮なく」と気易く言える立場にない。 「いえ、このままで」 後ろ手に手を組み、幸宏は上司と対面した。 「休みのところ、足労掛けたね」 「こちらこそ、遅くなりました」 「いやいや」 上司は眼鏡の縁を手で押し上げた。 「早速だが――昨日、談話室で起きたことに関して」 「はい」 「何か言うことはないかね」 「いえ、何も」 礼を失しないように、目礼をする。 「お耳に届くようなことをしでかしたことに対しては謝罪をします」 「君が踏んづけた彼ね」 「はい」 「顔の形が少々変わってしまって、しばらく休んで治療に専念するそうだ」 「そうですか」 「君に、謝罪と慰謝料の支払いを求めている」 「それだけ、でしょうか?」 「……今のところは、このふたつだけで私の方で止めている」 「――ご迷惑をおかけしました」 再度、幸宏は頭を下げた。 「怪我をさせたのは僕ですから、それ相応のことはします。治療費は掛かった分請求していただければ」 「うむ」 「しかし」 「うん?」 「支払いと引き替えに、僕も先方に謝罪を要求します」
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