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「お、お父様、お母様、みなさま、お別れにございます。
15年間、ありがとうございました」
「「………………っ」」
自分の身勝手で、忌み子を贄に仕立てた後ろめたさがあるのかもしれない。
だが、両親が言い出す前に身代わりを申し出たのは咲良の方だ。
気にやまずにいてほしいと言葉にしたいが、それでは鬼を謀(たばか)ろうとしている事が露見してしまう。
「わたくしは、異郷にあっても彼岸にあっても、皆さまが幸せであるように願っております。
どうか、…………どうか、末ながく……」
「「さくら……っ」」
何かを叫んでいるのだろう。
しかし、逆巻く風に阻まれて殆ど聞こえない。
間近まで跳ねてきた式神や付喪神達も、何かを叫んでいるのにもう聞こえない。
「済まない。
時間切れのようだ」
ごうごうと唸る風の壁が、視界すらも遮断する。
「良いのです。
言わねばならないことはもう、伝える事ができましたもの。
思い残す事は一つもありませぬ……」
「……そうか」
咲良の胸の痛みを和らげるように、鬼はもう一度背中をトントンと叩いてくれた。
「ご尊父、ご母堂、この場に立ち会いし皆に礼を申し上げる。
掌中の珠の如く慈しんだであろう子を、我の対として貰いうけた。
大事に慈しむ事を、固く誓おう」
「…………っ?」
聞き返そうとした時には遅かった。
逆巻く風は強さを増し、更にごうごうと唸りを上げてしまっていた。
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