第1章

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 今日もアイツはアジトから出て行く。 何かあるのかと尋ねると、いつも決まって「飲みに行く」だった。  最近その言葉が怪しい。 『飲みに行く』、アジトに酒はある。勿論俺とルパンの好みの酒がある。 それなのに飲みに行く必要など必要ない。 「おい、ルパン……」  声をかける前にバタン、とドアを閉めて出ていった。 この酒臭いリビングから玄関に、ルパンは歩いているんだろう。 そして、ギィィなんて戸が開く音が聞こえると、ルパンはアジトから去って行った。  明日の朝に帰ってくるのだろうか、そんな事を思いながらソファに横になる。  ルパン三世に愛された者は必ず死ぬ。 そういう【呪い】がかかったのは、いつ頃だろうか。  ルパンは気にした様子はないようだが、本気で愛した女が死んだ時はショックだったのか、三日間何も口にしようとはしなかった。  ルパンの女癖の悪さは誰だって知っている。 そんなルパンが惚れた女が、死んで、ルパンは部屋に籠もり、三日後、何も無いように出てきた。  ――なぁ、そろそろ、気付かねぇのか?  俺の呟きなど知らず、ルパンの野郎はお気に入りの赤いジャケットを羽織って出て行ったまま。  **  何日が経ったのだろうか、ルパンは今日もまた『飲みに行った』。 どうせそこらの女をナンパしているんだろう。懲りねぇ奴だな。  そしてフラれるのがオチなのによ。  朝5時、寝付けず煙草を咥え、リビングの古びたソファに腰掛け、バーボンを飲んでいるとルパンが帰ってきた。 「次元ちゃん起きてたの?」 「あぁ。寝付けねぇんでな」  短く返事をしながら煙草を灰皿に押し付ける。 自分の苛立ちを隠すようにグラスを掴み、口の中に流し入れる。 「チッ」  不意に出た舌打ちだった。 迂闊だ、ルパンの前で舌を打つなど絶対何があったのかと聞いてくる。 あぁ、どうやって誤魔化そうかと考えている矢先に――次元ちゃん? なんて声かけてきた。  当分テメェの声なんざ、聞きたくねぇや。そう答えてしまいそうになり、「喉の調子悪くてよ」なんて言い訳を吐いた。  ルパンは肩を竦め、「風邪には気をつけろよ」なんてほざいた。  ――あぁ、クソ。苛立ちが治まらねぇ!  帽子をいつも以上に強く押さえ、ソファから乱暴に立ち上がり、普段より速いペースでリビングを後にした。  一体何処の誰だ、俺の相棒をこんなに狂わしたのは。
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