第1章

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 喫茶店とは違ってパン屋というのは案内がされないのだから、ありがたい様なそうでもないような気分に浸りながらも、トングとトレーを取ってパンを乗せていく。  適当に目に付いたパンをトレーに乗せて、先に会計をしようとした次元は、ルパンの姿を捜し、辺りを見渡せば子供の高い声が、右耳に響いた。 「あ……」  ふと視線を向けてみると、そこには小学生ぐらいの子供と、ルパンの姿があった。 恋愛小説や恋愛漫画でよくある光景だ。  ヒロインが手を伸ばした先にのちに恋をする男の手も同じ場所にある、というかなりベタなものだった。  2人が取ろうとしていたパンは残り一つのメロンパンという、ロマンもないものだ。 「おいルパン。先に会計済ましておくぜ」  ルパンに近付き、一応声をかけた次元はそのまま会計をして、窓際に近く2人掛けようの席に店員から笑顔で渡されたトレーと、その上に乗っている白い皿と数々のパンと、レジで購入したコーヒーのブラックを置いた。  この店内はどこでも喫煙が出来るようで、テーブルの上には灰皿が置かれていた。  喫煙者のルパンと次元にとってはありがたい事だ。  一方ルパンと子供は次元の様子など知らずに、沈黙が訪れている。 子供にしていれば知らないおじさん、ルパンにしてみれば素手でも殺せる程の小さなガキ。   「あ、どうぞ……」  先に口を開いたのは子供で、トングを持っていた右手をメロンパンの方に差し出して、クルリと方向を変えた。  ルパンを背にした子供は金髪で毛先が黒髪、遺伝なのか染めているのかはルパンには分かったのだけれど、同世代の子供が見れば不気味に思うだろう。  顔つきは日本人なのだろうか、肌の色は白く、一言で言ってしまえば五右ェ門と同じで顔つきはぱっと見、女っぽいのだが、高校生にでもなれば美少年に入る部類なのではと、思った。  服装や声の高さで男の子だと気付く、と言うわけでもなく、背中に背負った黒のランドセルで判断した。 「おぉ、わりぃな」  普通は大人が子供に譲るものなのだが、その逆を行った子供に笑みを浮かべながらルパンはメロンパンをトレーに乗せ、その他にも色々なパンを取り、次元と同じくレジでブラックコーヒーを購入し、会計を済ました。 「おまたせ?」  左手にトレーを乗せ右手をヒラヒラとさせながら笑みを貼り付けて、次元の元にやってくる。
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