第1章

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ルパンが戻ってきて、席に腰を下ろした頃合に、先ほどルパンにメロンパンを譲った子供が窓際の2人掛け用席に腰掛けた。  ランドセルを隣の席に置き、まずクロワッサンを食べながらゴソゴソとランドセルの中を探っている。 子供が取り出したのは高校生が使うような筆箱、計算ドリルと書かれた練習帳、漢字練習帳と書かれたノートに、数枚のプリントだった。  トレーを窓の方にずらし、つまらなそうに筆箱の中から鉛筆ではなくシャーペンを取り出し、漢字練習帳に漢字を書いていく。  小学校で習う漢字は難しいのは少なく、大半が簡単なので意外にもすぐに片付く。 ただ単にこの子供が休み時間に漢字をほとんど終らせていただけなのだが。  漢字練習帳と書かれたノートをランドセルに仕舞い、次に計算ドリルを広げて文字を書き込んでいく。    その姿を見つめているルパンに「どうした?」と次元が声を掛ければ「いやー、懐かしいと思ってねぇ」と呟いた。  ルパンの言葉はあまり信用できないのだが、表情がどうしても穏やかに見えた次元は、短く返事をして煙草の煙を口に入れた。  計算は得意なのか、子供はすぐに計算ドリルを閉じて、ランドセルに仕舞う。 学校でほとんど済ましているのか、そうでないのかはルパンには分からないが、その光景を横目で見たり、あるいはガン見しているとふと、子供の手が止まったのに気付く。  初めは何か間違いでもしたのだろうかと思うルパンだったが、そこから暫く動かない子供の手を見ながら不思議そうな表情をしていたのだろう、再び次元から「どうした?」と声が掛けられる。  次元の問いに手で制して子供が座る席に身を乗り出してみると、子供の手の下にあるのはどうやらアンケートのプリントで、アンケート内容が『すきなもの』『しょうらいのゆめ』と、平仮名で書かれていた。 「好きなもの、ねぇ……」  ルパンが口を開いた。 いや、わざと子供に気が付かせるために声を出したのかも知れない。   「……人のプリントを盗み見ないで下さい」  隠そうとはせず、淡々と口にしながらも子供は他の箇所を埋めていき、残った二項目だけをじっと見つめている。  その表情はどこか興味が無く、好きなものも将来の夢もないように感じられた。 「いやー、さっきメロンパン譲ってくれたお礼に何か分からねぇとこあったら手伝ってやろうと思ってよ」
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