第1章

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 ルパンが無償で誰かのために何かをするという事はないのだ。 無償で行えば待っているのは、裏切りでもあり殺しでもある。  そんな世界で住んでいる人間が例え子供でも無償では動いたりしない。 普通ならそう思うだろうが、今のルパンは【とても機嫌が良い】ので、そんな事気にしないのだろう。   「おめぇさん、好きなものとかないって目してんぜ?」 「…………」  無言。 肯定と捉える事が出来るその返答はルパンは肯定と受け取り、表情を和ませて「そんなモン何でも良いだろ。書いたモン誕生日にくれたりする訳でもねぇのに無理に考える必要なんざ、ねぇよ」と実にロマンのないアドバイスをすれば、子供は思いついたようにシャーペンを走られせる。 『好きなものはない』と。 「でだ、その将来の夢とやらも適当に書いちまえ。例えばこのルパン三世の相棒になる、とか」  これまたロマンのない否、小さな子供を犯罪に巻き込もうとしている大人の図なのだが、それでもルパンなりのアドバイスはしたわけで、子供は暫し悩んだようにしつつもプリントに『何かを極める』と書いた。  それを見たルパンは口角を上げ、「銃の使い方なら教えてやるぜ!」と子供の頭を撫でながら、後ろに手を伸ばし、メロンパンを掴み自分の口に運ぶ。    次元はその光景を見ながらも『何やってんだ、コイツは』と心中で思うも、口に出して面倒なことになる可能性もあるので何も言わず、本日何本目か忘れた煙草を灰皿に押し付ける。 「おい、ルパン。ガキをからかうのもその辺りにしておけ。迷惑だろ」  一応声を掛けてみたものの、ルパンは気に入ったものを手から離さない主義なので聞く耳も持たず、いつの間にか子供の目の前の席に腰掛け、談笑をしていた。  ――バカヤロウ。  次元の溜息と呆れが同時に襲ったのはこの時だった。  **  それからと言うもの、ルパンと次元はまだ仕事を終えていないので、暫く滞在する事になったのだが、何故だか子供が住んでいるところを調べ、その付近に住むようになった。    そしてその付近で住むようになってから気が付く事が多々あった。  まず、その子供の名前が『六条道恋也』ということ。 そして、あまり良い印象は近所にはないということ。 同級生にはいじめをあっているということ。  全てにおいてあのパン屋では見せなかった子供、六条道恋也は何かを持っていた。
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