第1章

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「わー! 恋也の奴が来たぜ!」 「こっち来るなよ!」  同級生の男の子2人が恋也の前を小走りして、振り返ってから上記を言うのを何度も繰りかえしていた。 小学生だから、というのもあるのだがワンパターン過ぎて突っ込むところが多いような気がする。 「俺らにビビって路地裏に入って行ったぜ」  ビビったのではなく、面倒だから恋也は路地裏に消えた。 単に歩く距離を減らしたいというのもあったのだけれど、恋也には同い年と帰るのは気が進まなくて、面倒なことなのだ。  そんな事も知らずに2人は恋也の後をニヤニヤしながら続いていくのだ。  そしてやっぱりというか、お決まりの展開で、恋也の目の前にはクラスで一番トップと言われる存在の大将がいて、意味も無く恋也は殴られる。  子供に理由などは存在しない。 気に食わなかったから、ムカついたから、そんな誰が信用するかと言われるほどの低レベルな理由なのだ。  恋也の周りにはざっと5人。 全員同性というのもあるので力は結構なものだろう。  ランドセルを背負ってでも恋也はこの5人を置いていけるほどの脚の速さはある、けれど面倒だから行わない。  恋也は基本面倒だと思い、他人に好き勝手させている。  のちにそれを理由に色々しでかすのだが。 「コイツビビってる感ねぇな!」  ふと、一番図体のでかい子供が声を出した。 チラリと地面に叩き付けれられている体で上を見上げる。  緑色のTシャツを目にした途端、あの日の事を思い出した。  あのパン屋で出会った、ルパンと口にした男の事を。  ルパン三世と名前は聞いた事があるのだが、人物は知らない。 だからあのパン屋で出会ったのが本当にルパン三世なのかという疑いもあるので、信用はあまりしていなかったのだが、ルパンと会話した時は楽しかったな、と思い出す。  一方的にルパンが話していたのに近いけれど、飽きることはなく、奇想天外で、話し上手だとその時理解した。  ――そういえば、あの煙草吸ってた人、知り合いなのか? あー、ちゃんと名前聞いておけば良かったな。  もう会うことはない。 そう決め付けてしまった恋也の頭の中には『もう一度会いたい』という思いが、消えかかっているのだ。 「これで良いだろ」  誰かが鉄の何かを壁にぶつけた音がする。 殴られるんだ、と思っても逃げようとせず、目を瞑った。――その時だった。
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