第1章

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 何故自分がそこに居たのか、それは分からずに残りの酒を飲んでから帰ろうかと思っていると隣から声がする。 「おめーさん、酒はつえー方かい?」  こうして話してみると渋い声だなと思いながらも、グラスに視線を向けて「酒の種類にもよる。日本酒なら問題はないけど、カクテルやチューハイは飲むと拒絶反応を起こす」と答える。  互いにまだ呂律は回っているので、酔いはそこまで回ってはいないのだろう。 「それにしちゃぁ、ちと掻き過ぎやしねぇか」  言われた言葉に恋也はピタリと動きを止める。 あぁ、やっぱりバレていたのかと、内心溜息を吐けば左足首を見つめる。  そこにはやっぱりと言って良いほど赤い斑点がいくつもあり、更にデコボコしているのが良く分かる。  ――飲みすぎたな。  心中で呟きながらも先ほどまで掻いていたのもあり、左足首から掻いてくれと主張するように痒みが襲い、耐え切れず、右足の踵で押さえながら残りの酒を飲み干した。  革靴だったのが幸いしたのか、痒みは暫く和らぎ飲んだ分の代金をカウンターに置き、イスから立ち上がった。  歩く度に痒みと痛みが増し、顔が歪みつつも重たい木製のドアを開けて、店の外に出る。 その瞬間に「ありがとうございました」というバーテンダーの声を背にしながら、夜の風にあたりドアが完全に閉まったのを確認すれば、左足の靴と靴下を同時に脱いだ。  左手に靴と靴下を持ちながら近くにある公園に向かい、足首を冷やすように歩いていた。  春の上旬と言えるのだが、まだ寒さは続いており、ジャンパーやパーカーが必要と言う時期に恋也は白いTシャツに茶色のパーカー、灰色のスラックスを身に纏っていた。  アレルギー、そう言ってしまえば簡単なのだが、アレルギーにしてみれば酒を飲んだ一口目から様子が可笑しくなるはずだ。  役7杯目から足首を掻き始めて、今に至る。 そこまで進んでいないのか、足首だけで済んでいる筈だと信じていたい。 「……今の所、足以外に痒くないな」  そんな事を呟いている間にも公園に着く。 公園と言っても人が大体集合場所にするぐらいで、遊具など無く、ある物といえば自販機と手洗い場とお手洗いと、噴水とベンチとテーブルである。  柵の内側に木などが立っているが、それが何の木かは分からない。  ひとまず手洗い場に向かい、水がかからないであろう場所に靴と靴下を置き、蛇口を捻る。
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