第1章

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キュッ、キュッと音がして冷水が流れ、恋也は左足首を冷水に当てた。 「あー……。痛い、気持ちいい」  いたぎもちい、その名の通り、痛いけれど気持ちが良い。 掻いた後に水につけると激痛が襲うがある程度の時間が経てば、激痛は襲ってこない。  人の体というものは不思議なものだ。  治まるまでにどれ程の時間が掛かるのだろうかと思いながらも、足首全体に水を当てていく。 「こりゃぁ、随分痛そうなモンで」  ふと、声がした。 あのバーで聞いた声を恋也は耳にして、声のした方に向く。  そこにはやっぱりというか、なぜ居るのかは分からないがあのボルサリーノを被った男が居た。 「……何で、居るんだ」  視線を自分の足に戻し、大分治まってくれば水から離して適当に水を切る。 タオルなど持ってはいないので乾くまでベンチで座っておこうと、靴と靴下を持ち、ケンケンをしながらベンチに向かう。 「いやぁ、何。おめーさん、随分と痒そうにしてたモンでよ、薬ぐれぇ塗ってやろうと思ってよ」  どこの世界に他人にそんな事をする人が居るのだろうか。 特に裏社会で生きているなら余計にしないだろう。  自分がそれで殺される事だって考えるはずだ。  なのにこの男はそれをしようとしているので、呆れたように恋也は息を吐いた。 「いつもの事だ。水に濡らすか冷たいタオル巻いておけば治ってる」  適当な処置だな、と自分でも思う事を口にすれば男は恋也の近くまで歩き、恋也がベンチに座ったのを見て、一人分のスペースを開けて隣に座れる。 「いつもあんなになるまで飲んでやがんのか?」  男が煙草に火を付けながら問う。 チラッと銘柄を見た恋也は『マールボロ』という文字が見え、自販機でよく見かけるアレかと所々の自販機にある煙草を思い出す。 「いや。普段はアレだけ飲んでも何ともない。疲れてたりすると、出やすいだけ」  ふぅと煙の吐く音が聞こえながらも自分の足を見つめながら返答する。 あまり見ないようにしていたのだが、やっぱり赤い斑点が気になり右手を左足首に持って言って掻こうとすれば、隣に居た男に右腕を掴まれる。 「止めておきな。それ以上やると悪化するぜ」 「悪化したら冷水風呂にでも入る」
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