第1章

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 痒いのか、と男は内心思うも口に出すことはせず代わりにというように「俺よりアイツの方が詳しいだろ、ホレ、乗ってけ。蕁麻疹が治るぐれぇの間だけなら、面倒見てやる」と言って、ベンチから降りて、しゃがんだ。  背中に乗れというように。 「別に俺も子供じゃないので」 「あのマスターもおめぇさんがまだまだガキだって事には気付いてるぜ」  ピクリ、と肩を動かしてヤバイなと思っていたのも束の間で男の「そうだろ、ルパン」と言う声と共に、恋也の左側から気配がした。 「次元もっとマシな登場のさせ方はねぇのかよ」  愚痴を零すかのように言いつつも「ルパン」と呼ばれた男は緑のジャケットを羽織って、煙草を咥えながら恋也の方に歩いてくる。  次元はというと暫くしゃがみながら煙草を吸っていたが、脚が疲れたので一度立ち上がっていたのである。 「あのバーのバーテンダーはルパンだったって事に気が付いてりゃ、足なんて掻かなかったんだろうな、お前さん」 「……知らないし、てか何でバレてんだ」  小声でブツブツと未成年だとバレた理由について述べているが、正解という正解に辿り着けなくて考える事を放棄し、「っで。ルパンさんとその知り合いさんが俺に何の用ですか?」と背凭れに凭れて尋ねる。 「いや、何。次元がガキの癖に俺と同じ酒を飲んでやがる。とか言い出すんでちょっくら顔を拝んでやろうかと」  ふざけているような、そうでもないような雰囲気で話すルパンに理由がしょぼすぎると感じた恋也は溜息を付き、今度は右足の踵で左足首を掻こうとしているとルパンから「止めておきな」と言われる。 「コイツはな、タコを見ると蕁麻疹が出るんだ。おめぇさんよりかは、蕁麻疹に詳しいだろうぜ」  得意気に言う男――次元に呆れを覚えた恋也は真っ黒なけれど澄んでいる空を見上げて「俺は何て言えば良いんだ?」と、ルパン、次元、それとも2人に問うた。  ルパンと次元は顔を見合わせニィと笑みを浮かべてこう言った。 「蕁麻疹が痒い」  結局あの後恋也は次元に背負われて、ルパンのアジトで蕁麻疹の薬を塗ってもらい礼に、何故青年だと偽っていたのかと尋ねられ、同じ裏社会で生きていて、馬が合ったので一時的な仲間としてルパン一味に加わったのである。  
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