第1章

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 その冷たさからあぁ、あの子かと思いつつもメロンパンを食べながら「何で朝、西城さんと名取さんだって言ったの?」と礼も言わずに尋ねた。  名前が分からないのでどうとも表す事ができないので、ここでは一応女子と称しておく。 女子は自分の席に向かって歩いて行き、机の隣に掛けてある鞄を取って「興味ないって言った」と返答した。  表情は見えないけれど、会話が成り立っていない雰囲気なので「興味ないなら普通は言わないと思うけど」と、苦笑いを浮かべた。 「落書きされていた事にも、落書きをしていた事にも興味がないけど、あのままダラダラとした時間が続くのは嫌だったから言っただけ」  よいしょ、と言って女子は机に座ったのを横目で見た。 行儀が悪いけれどそんな事を言っても仕方ないと思う。   「帰らないの?」 「帰って欲しいって事?」  質問を質問で返される。 頬杖を付いて話しているんだろうなと思いながらも、少し気まずさを覚えて抹茶オレを飲む。  少しでも気が紛れたら良いなと思ったのだけれど気は紛れない。 「家何処?」  初めて女子が話しかけてきたと思う。 急な事に驚きつつもストローから口を離して「丹神橋(にしんばし)市」と答えた。 「同じ所に住んでるんだ。俺も丹神橋」  一瞬「俺」と聞こえて女子の方に向く。 確かに見た目は女の子、紺色のブレザーを身に纏って、チェックのスカートを穿いて、黒のハイソックスを穿いて、緑色のスリッパを履いている女の子。   「……一緒に帰って良い?」  不意に尋ねられた。 多分、初めてだと思う。  誰かに「一緒に帰っても良い」と聞かれるのは小学校以来だと思う。 「良い、けど……」  どうなっても知らないよ、と言いたかった私の表情を読み取ったのか、顔にそう書いていたのか私には判断できる事ではないけれど、気を遣ったのか「西城さんと名取さんは「古川(ふるかわ)市だった」と言った。  だった、と言う言い方に違和感を覚えたので首を傾げながら「だった?」と尋ねると「クラス発表の時に名前の横に中学校の名前と住んでいる市が書かれてた」と答えた。 「知ってて、私の住んでるとこ聞いたんだ」  ムッとした。 知っているなら聞かなくても良いと思いながら、最後の一口のメロンパンと、抹茶オレを口に入れて流し込んだ。
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