第1章

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 ちあきは一見冷たそうに見えてきっととても思いやりがあって、優しいのだろう。 でもそれを表に出そうとはせず、隠しているのか面倒だから出していないのかは分からないけど、私にその優しさを出したというのは、どうしてなのだろうか。 「……じゃぁ、聞くけど何で俺に忘れ物でもしたと聞いた? 普通なら俺の事は無視してると思うけど」 「それは……。理由なんてないよ……」  純粋に忘れ物でもしたのだろうかと思ったから、そう聞いただけで、それ以外には理由がない。 それを答えても良かったのだけれど、何だか違う気がして答えずに理由はないと答えるとちあきは「ほら、理由もないのに俺とやってる事は同じじゃん」と呟いた。  あえて聞こえるように呟いたのだろう。 「例え何か理由があったとしても人間って奴はそれを隠したがる。俺にはどうでも良いことだけどさ、ちとせが俺に話しかけたのも、俺がちとせに奢ったのも結局は形が違うだけで一緒なんだ」  上手くまとめられた感が残りつつも、電車が来るアナウンスを聞いて、ちとせは立ち上がった。 そして七秒後に到着すると言うアナウンスの声にいつも本当なのか、と心中で突っ込みを入れながらも私も席を立ち、ちあきの隣で電車を待つ。 「ま、良いや。何か暗い話したな、この話はもう終るか」  そうちあきが呟いている頃に電車が来て、目の前で止まり、ドアが開かれ、中から数人の人が出てきて、電車の中に入る。 『5月上旬。 ちあきの一面、というか、ちょっとした部分を知ったような気がする』
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