第1章

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お互い名前を呼び捨てにする事の方が慣れているのか、強要はしていないけれど自然と名前を呼び捨てしていた。  ちあきの問いにイエスともノーとも答えて良いのか分からず、「いじめの定義が分からないから何とも言えない」と返す。  何を【いじめ】と言うのか、【いじめの定義】とは何なのか、人によって定義が違う。  机に落書きをされていることから『いじめ』と言う人も居れば、暴力を受けたところから『いじめ』と言う人もいる。  たいていは前者だろうけれど、私自身前者はいじめに入らない。 ただの暇つぶしだったのだろうと、そう思ってしまうから偏った考え方をしているのだと、自分でも思う。 「いじめの定義ねぇ……。大体は机に落書きされてたらいじめられてるって思うな。ちとせはそうは思わない?」 「思うか思わないかだと、思わない。かな」 「珍しい考え方」  『珍しい』そう言ってくれたのはちあきだけな様な気がする。  中学が同じ名取にも『いじめの定義』という話で盛り上がった事があった。  当時はまだ仲は良い方で、普段行動も一緒だったのだけれど、名取は私と同じ高校に入学して西城に惹かれて、それからは私との縁を切った。  人の縁なんてものはそんな程度で、特に女はとっかえひっかえが多いと思う。  名取が絶交と言ったわけでもなく自然と縁が切れていったと言った方が早い。  そんな事より、私と名取が仲の良い時期があってその頃に『いじめの定義』は何だと思う、なんて会話で、私がちあきに言った事をそのまま名取に言った事がある。  その時の名取の返答が『ちとせってさ、ひねくれてるね』だった。  ひねくれている自覚はあったものの、実際に見ている世界が楽しくなかったのか、父から聞いた話の方に惹かれたのか、おそらく両方だろうけど、対して気にはしていなかった。  ひねくれていても私は私で、私が思った事は一意見であり、正解ではない。 それすらも考えない事に呆れていたのか、名取の発言に怒りなど湧いてこなかった。 「珍しい?」 「まぁ、珍しい方だと思う。俺の周りそんな考え方する人居なかったからな」  それは一種の、『ひねくれ者』として捉える事が出来るセリフなのだが、その後にちあきが続けた。 「俺が言えた事じゃないけど、良いんじゃない? そう思っても。俺みたいに興味ないで片付けるよりよっぽど賢いよ」
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