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直樹の話は何だったのだろうか。こんなことになるなら無理にでも時間を作って直樹に会えばよかった。
(あ……CD、借りたままだ……)
好きな曲も同じ。二人で繰返し聞いたメロディーが知哉の頭の中で切ない旋律を奏でる。
ああすればよかった、こうすればよかったと過ぎた日々へと知哉が思いを巡らせている間にもタクシーが病院へ到着する。
知哉は自然と潤んでくる目元を手の甲で乱暴に拭い、直樹が待っている病室へと急いだ。
間もなく面会時間が終了するせいだろうか、あちらこちらの病室から見舞いに訪れた人たちの別れの挨拶が聞こえてくる。
それを横目に知哉は目的の場所へと足を早めた。
三〇三号室。知哉はネームプレートにある『三好直樹』の名前を確認しドアの取っ手に手をかけ――そして動きを止めた。
病室の中から馴染みのある直樹の声と、もうひとり聞き覚えのない女性の声が聞こえる。漏れ聞こえる会話から知哉には二人がとても親密な間柄なのだと察せられた。
ドアにかけた手はピクリとも動かず、知哉にはそれ自体がまるでずっしりとした重りのように思えた。
ドアを開けることを諦め重力に添って知哉が腕をだらんとおろしたその時、病室のドアが開いた。
「――――!」
「あら」
中から現れた小柄な女性と知哉の目が合う。
「もしかして、高瀬……知哉さん?」
「あ、はい」
「朋美? 誰か来たのか?」
「うん、高瀬さん」
病室の中から聞こえた直樹の元気そうな声に朋美と呼ばれた女性が答える。
朋美はにっこりと柔らかな微笑みを見せると、知哉を病室の中へ案内した。
「よう、知哉」
「直樹…………元気そうでよかった」
「悪い、心配かけたみたいだな。俺ならこのとおりすっかり元気だ。一応今日ひと晩、入院しないといけないみたいだけど」
額にガーゼを貼り付けているが、他に大きなケガはなさそうだ。
ひとまず直樹が無事だったことに知哉が胸を撫で下ろす。
「何ともないみたいで本当によかった……直樹、あの……さっきの人は?」
「ああ、朋美か。あいつは幼馴染み。実家の隣に住んでるんだけど、うちの親が両方とも来れなくて、代わりにあいつが来たんだ。全く……元気だから大丈夫だって言ったんだけどな」
病院のベッドの上で明るく笑い飛ばす直樹。
だがこの時、知哉は直樹に対して小さな違和感を感じていた。
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