第1章

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何か文句の一つでも返ってくるのだろうと思っていたのだが、うんともすんとも言わなかったのでちとせ、と声を掛けながらちとせを見れば、口元を押さえて俯いていた。 「来い」  短く告げて、ちとせの腕を引っ張る。 力加減が分からないのでそんなに力を入れず、けれど引っ張っていけるぐらいの微妙な力加減でリビングを出て少し歩いたところにあるトイレまで連れて行く。 「マシになるまで此処に居たら良い。無理に我慢せずに吐いたって良いからな。俺はリビングに居るからマシになったら戻って来い」  そう言い残してトイレのドアを閉めてリビングに戻る。  ホラゲー、グロゲー、ゾンビゲー、3Dゲーによる悪酔い。 目に優しくないので長時間プレイすると頭痛や吐き気、体調不良などが起きる。  ちとせの場合吐き気だ。    ゲームをすることになった時、ちとせが「コレやりたいけど、グロゲーとか3D系のって普段しないから、気分悪くなる」と言っていた。 だから、気分が少しでも悪くなったら言えと言ったのだが、一体どの辺りから具合が悪かったのだろうか。  それともゲームを中断したので一気に吐き気が襲ったのか、どっちにしろ、暫く休めた方が良いのでゲームの電源を切り、テレビを消した。    そういう事をしている内にちとせがリビングに戻ってきて「気持ち悪い」と呟いた。 「ソファで寝といたら良い。長くゲームをしすぎたんだろ、暫く休んでたらマシになる」  ちとせはソファに座り、お茶を飲み、ソファに横向きに転がった。 「賭けも俺が勝ちだから俺の家に居ることになるんだけどな」  そうちとせに発して、ゲーム機を片付けていく。  本当に、俺は一体……何がしたいのか、自分でも分からない。と目を伏せて思うのだった。
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