第1章

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 【宿泊客/Hotel guest/1st】  友人、そう言えるのかはまだ分からない。 実際会って少し話した程度で、それで友人と言えるのなら世の中の『友人』という線引きが狂ってしまっているのだと、俺は思う。  俺の自論だが、『友人』とは字の如く「友の人」という意味ではないと思っている。 もし『友人』が見たまま字の如くと言うのならば、友の趣味を嫌ったりしないだろう。  「友の人」、それが『友人』の意味ならば――。  俺にとっての『友人』と言うのはやっぱり、どこかズレているのだろうか。  **  客、そう言うのが正しいのか、俺の家にちとせが来る。 俺が誘ったから来たのであって無理矢理押しかけて来たという訳じゃない。 「とりあえず上がって。そのまま二階に上がったらリビングだから、先行ってて」  ドアの鍵を開け、重たいドアを開けてちとせに告げる。 本当は俺が案内するべきなのだけれど、一階にある兄貴の仏壇に顔ぐらい見せてやろうと思い、ちとせを先に行かせた。  そういえば最近線香も上げていない事を思い出し、頭をガシガシと掻き乱しつつ、廊下を歩いていく。  その道中「ちあきー。本当に先に行ってて良いの?」とちとせの高い声が家中に響く。 「あぁ。先行って何か色々あるけど、どこでも良いから座っておいて」  表情こそ分からなかったが、ドタバタと階段を上がっていく音ではなく、ゆっくりと丁寧に階段を上っていく音を耳にし、ちとせが了承したと受け取る。  さて、と……。何日ぶりだっけ、線香上げるの。そう小声で呟き、木箱の中から緑色の棒状の線香を取り出し、近くに置いてあったマッチに火を点ける。  ユラユラとオレンジ色に揺れながらそこにある炎は、蝋燭の火の様に存在し、暫くの間燃え続けた。  ――チンッ……。  控え目に鳴らした鈴が振動で僅かに揺れる。 線香に火を憑け、鈴を鳴らし、手を合わせる。  兄貴が亡くなってからどれ程の時が経つのか、思い出せそうで思い出せない。  俺が小さい頃に亡くなったのか、俺が中学生頃に亡くなったのか、でも一つだけ覚えているのは兄貴がしょちゅう口にしていた『死ぬならバイクで死にたい』という思いだけ叶ったという事。    それから何事も無かったかの様に鞄を抱え、階段を上り、リビングに繋がるドアを開ける。 リビングは決して広くもなく、狭くもない。
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