第1章

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 適当な配置の机とソファ。大体は兄貴の趣味だった気がする。 「ちあき何かしてた?」 「まぁ、ちょっと……」  ちとせが首を傾げて不思議そうに尋ねてくるので、言葉を濁しながらも肩を竦め、苦笑いで返答した。  別に言ったところで何かが変わっても俺には興味がない。  隠す必要もないのだが、どうやら俺は他人に踏み込んで欲しくない部分があるようだ。 「……聞かない方が良さそうだから、聞かないでおく」  物分りが良いのか、単に聞く気がないのか、どちらかは俺には分からない。 ただ、ソファに腰を下ろしているちとせに見えない様肩の力を抜き、安堵したのを俺は心の奥底で確認した。 「そういえば何も出してなかったな。えっと、今あるのは……麦茶とミルクティーか……」  冷蔵庫を開けて、一番初めに見えたのは1Lと書かれたペットボトルが二本。  一つは『午前の紅茶』と赤いラベルが貼られていて、もう一つは『午前の紅茶』と白いラベルが貼られていた。  お茶とミルクティーとは良く分からないチョイスだ。 誰が買っておいたのか、俺しか居ない。 「そんな良いよ! シュークリーム奢ってもらってるし……」 「家に招き入れたらお茶ぐらい出すのが普通だろ。お茶だな」  独り言と返答を繰り返しながら木製の食器棚から白いマグカップを二つ取り出し、ペットボトルに入っている昨日の夜沸かして、今日の朝入れたやつだと、一人で誰にでもなく心中で呟き、カップに注いでいく。  大体9割ぐらいだろうか、お茶が入ったのでペットボトルを冷蔵庫に仕舞い、ちとせが座っている目の前に、カップを置く。  机の上に置かれたカップは急に冷たい液体が入ったせいで、ひんやりと冷たくなっており、この季節なら少し寒さを覚える感じだろう。 「あ、ありがと」  遠慮気味に礼を述べたちとせに鼻で笑ってから、カップを口元に持ってくる。 やっぱりというか予想を裏切らないのが良いのか、麦茶は冷たく、冷やしすぎたかと立ったまま麦茶を飲む。 「行儀悪い……」  じと目でちとせに見つめられたので、カップを机に置き、ちとせと向かい側にあるソファーに腰掛ける。  いつ座ってもフカフカのソファーは時々そのまま寝てしまっていた事があり、兄貴に随分と布団に行けだの、風邪引くだの、だらしないだの、と言われていたのを思い出した。
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