第1章

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 久しぶりに線香を上げた所為で感情的になっているのか、そう思うことにして、今は忘れようと黒いソファに寝転がって窓の外を見る。  ――雨、降りそうだな。  雲行きが怪しくなってくれば、小雨なのか雷雨なのかは分からないが、多分、雨は降る。 「なぁ、ちとせ。雨降りそうだからさ、『賭け』してみるか?」 「賭け……?」  突然の事で驚いたのだろう。 そりゃそうだ、俺自身も驚いている。  何故ちとせを家に誘ったのか、多分馬が合ったんだ。 駅のホームで話している時に俺自身の中で『仲良くなりたい』そう思ったから、こうして家に誘った。  帰るのが遅くなれば、俺が送って行こうと思っている。 同じ丹神橋市だ、そして丹神橋市はそんなに広くない、だから現在一人暮らし中の俺にはあまり問題はない。    両親が共働きで滅多に家に居ない。居ても一年に2、3回ぐらい。 それでも俺は自由に過ごせていたので文句は言った記憶がない。 「そう、賭け。雨が降るか、降らないか。18時までに雨が降ったら、また雷雨なら俺の家に泊まる。降らなかったらまた小雨ならちとせは帰宅する」 「どうして急に?」 「楽しいかと思って」  いえい、とピースサインを送ればちとせは暫し悩み、そして「乗った」と、得意げに笑った。 賭け事が好きなのだろうか、ちとせがこれといって得をする訳でもないのに何故乗ったのだろうと考えていると「何で乗ったかって顔してる」と言われた。  肩を竦め、上半身を起こし、制服が乱れるのも気にする事なく、笑みを浮かべ「誰かと何かを賭けるって久しぶりだからな」とカッターシャツの胸ポケットから千円札を取り出す。  その千円札を机の真ん中に置き、「勝った方がこの千円を手に入れるって事で」と、トントンと人差し指で千円札と机を一緒に突く。  ちとせは暫くフリーズするも我に返り「高額すぎじゃない?」と首を傾げる。 「俺にとっては安い方」 「金持ちのセリフみたい」  そんな事を言われ冗談で財布から昨日下ろした生活費の一部の一万円札を取り出し、「こっちが望みならこっちでも構わないぜ?」とヒラヒラとうちわみたいに扱う。  そろそろ罰が当たりそうで止めておく。 「千円で良いよ」  さすがに一万は高すぎたかと思いつつも、交渉成立し、18時までする事も無くというのもあれなので、ゲーム機を引っ張り出して来た。
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