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次の日何故かりとが俺の部屋に来た。
いつもなら互いの部屋に一歩も入らないのに何故かは分からないが、りとが俺の部屋に入ってきた。
それも学校で隣のクラスに居る友人に声をかけるかのように。
「恋也ー」
ノックもせずにガチャリとドアノブを回して、俺の部屋に堂々と入ってきた。
表情は不機嫌でも上機嫌でもなく、いつもと同じでドアを閉めて俺のベッドに腰掛ける。
その動作を見ている俺は何度も別人ではないかとりとを疑う。
俺の兄はまず俺の部屋に入らないし俺のベッドにも腰掛けない、そんな奴なのに今日の兄はいつもの様子が全くない。
本当に兄なんだろうか、どこかのそっくりさんではないのだろうかと思っている間にもりとは俺の部屋を見渡している。
「なぁ……」
遠慮がちに声をかけた。
俺は勉強机にあるイスに腰掛けていたので、声をかけるとりとは俺の方に向いた。
「ん?」
短く首を傾げるりとが異常にしか見えなくて、思わず顔を逸らしてしまう。
顔を逸らせばしまった、と思い怒らせてしまっただろうと思いりとの方へ恐る恐る向いてみるとりとは全く気にしていない様子でいる。
俺にとって今のりとは不思議で仕方がない。
「あの、さ……」
これもまた遠慮がち。
いやいつも通りに会話しろと言われても今のりとは俺の知っているりとじゃない。
俺はりとの返事を待つことはなく続けた。
「中央駅に来いってメモ置いたの、お前だよな……?」
一言「違う」と俺は言って欲しかった――それは多分、建前であって本音じゃない。
ただ一言「んなわけねぇ」といつもの様に言って欲しいと100%思っていた――100%肯定して欲しかった。
そんなことを思っている俺とは真逆にりとは「何か、文句あんのかよ」と自分がメモを置いたと肯定していた。
俺の表情は何故かにやけてしまいそうだ。
実際は全く嬉しくもないのに――本当は嬉しいなんて気が付いてない。
俺はどうしたら良いのか分からないので、適当に頷いていた。
メモが置いてあった日から6日目。
特に変わりもなく1日が終ろうとしていた時に俺は、中央駅に来いと書かれたメモを再び勉強机の隅っこで見つける。
今度は俺が見ている側に『金曜朝6時貴重品持って中央駅に来い』と書かれていた。
最初から細かく書いていれば良いものをと1人で思いつつそのメモをゴミ箱に捨てる。
「朝6時って結構早いな」
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