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俺より10cm高い位置から声がする。
正直顔を上げれそうにない。
声だけ聞けば不機嫌。
未だにりとの腕から手を離さずに床を見ていると上から「見られてんだけど」と言われて、ゆっくり顔を上げて辺りを見渡す。
ドア越しにこっちを見る人たちや真後ろや少し離れたところから見ている学生やサラリーマンと目が合えば、自分がしたことに恥ずかしさが襲い顔が赤くなるのが分かる。
すぐにりとから手を離して何事も無かったかのように咳払いをして、ポケットに両手を仕舞って、俯く。
暫くしてドアが開き、結構田舎なのかそんなに人が居ない事に電車を降りた時に気付き、置いていかれないようにりとに合わせて歩く。
改札口で切符を通して駅から出て、名前を見てみると知らないところだった。
『二階堂駅』と看板には書かれていた。
中央区とは違い、自然が豊富でまるで全く違う所に来た気分になる。
右を見ても左を見ても山の緑、紅葉やイチョウの葉で赤や黄色、空の水色等が広がっていた。
りとが足を止めたので俺も立ち止まる。
「歩きかタクシーどっちが良い?」
「えっ?……どっちでも……」
振り返って尋ねられるとどちらかを答えた方が良かったのか、りとは舌打ちをした。
実際どこに行くかなんて知らないのでどちらが良いかと聞かれても答えるに答えれない。
ただ、ほんの少しだけ賭けてみようと思った事には気付きたくない。
りとが出した答えは――『歩いて行く』だった。
本当は嬉しいのかもしれない。
少し望んでいたのかもしれない。
俺は自分の兄とこうやって出かけることを望んでいたのかもしれない。
2人で歩いて他愛もない話をしながら出かけることをしたかったのかもしれない。
そうかもしれないし、違うかもしれない。
歩いて行く事になり駅から目的地まで歩いていく。
本当にどこに行くのか分からない。
ただ、りとはボストンバックを掛けている右肩を痛めているのか、時々手を当てていた。
「……荷物持つの、代わろうか?」
少し躊躇い気味に尋ねる。
りとは足を止めて、俺の方に振り返った。
右肩を押さえたまま。
何が入っているのかは分からないが、様子からして重たいのだろう。
俺が遅刻したのもあり長時間1人で荷物を持っていたんだ、さすがにそろそろ交代した方が良いかと思ったので声を掛けてみたのだけれど、余計なお世話だったのだろうか。
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