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その様子をルパンは笑みを作りながら見つめて、何も言わずにただグラスを口に持っていく。
「……で、初めての味はどうだ?」
カラン、氷がグラスに当たる音がし、グラスがデスクに置かれた事が分かる。
グラスの傍にはまだ幼い手がある為恋也がグラスを置いた。
「初めての味って言われてもなぁ……」
若干返事に迷っているが正直に言ってしまえば、『大人の味』で、不味いという訳ではなかった。
初めて飲んだから蒸せただけで、普段飲んでいれば飲めるだろうと言う、どこから来るのか分からない自信を恋也は持っていた。
使い古したような緑、正確には所々破れている深緑に近いソファに身体を預けて、天井を見つめながら恋也はぽつり、一言何気ない言葉を呟いた。
「ルパンと飲んでて美味そうな味だった」
それは単に酒を飲んでいたいと思っている。
同じ裏世界に住んでいるのだから、同じ酒も同じように感じられるだろう。
そう思ったから、ただそう呟いた。
「…………」
ルパンの上がっていた口元は下がっていた。
ルパンの目に恋也はどこか寂しそうな表情を浮かべている。
動物で表すと兎のような、今から捨てられる猫や犬みたいな表情をしていた。
「合わせてくれるだけでも、有り難いってもんよ」
組んでいた脚を下ろして、ルパンはグラスを片手に立ち上がり恋也の隣に腰掛ける。
恋也の肩に腕を回して半分抱きしめるような体勢になり、ゆっくりと右手を恋也の目の前に持っていき、恋也の前で右手に持っているグラスを、ほんの少しだけ傾けた。
氷を見せ付けるかの様に。
「合わせてるって訳じゃ……」
目を逸らしながら呟いて、目の前に持ってこられたグラスを見つめ、球体の氷を見つめている。
カラン、カラン、と氷が音を立ててグラスに当たっているのを、ただぼんやりと眺めていた。
いや、ぼんやりとしか出来なかった。
はぁ、はぁ、と息遣いを荒くしてとろんとした目で、氷を見つめていた。
それが分かるとルパンは肩を揺らしながら笑い、口を動かす。
「この酒じゃなく、この氷に『何か』が入っていたら、どうする?」
球体の氷に薬を仕込むのは簡単で、それを飲ませるのも簡単なことだ。
ただ、自分が薬入りの氷を取らなければ良いだけの話だ。
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