第1章

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 その様子をルパンは笑みを作りながら見つめて、何も言わずにただグラスを口に持っていく。 「……で、初めての味はどうだ?」  カラン、氷がグラスに当たる音がし、グラスがデスクに置かれた事が分かる。 グラスの傍にはまだ幼い手がある為恋也がグラスを置いた。 「初めての味って言われてもなぁ……」  若干返事に迷っているが正直に言ってしまえば、『大人の味』で、不味いという訳ではなかった。  初めて飲んだから蒸せただけで、普段飲んでいれば飲めるだろうと言う、どこから来るのか分からない自信を恋也は持っていた。  使い古したような緑、正確には所々破れている深緑に近いソファに身体を預けて、天井を見つめながら恋也はぽつり、一言何気ない言葉を呟いた。 「ルパンと飲んでて美味そうな味だった」  それは単に酒を飲んでいたいと思っている。 同じ裏世界に住んでいるのだから、同じ酒も同じように感じられるだろう。  そう思ったから、ただそう呟いた。 「…………」  ルパンの上がっていた口元は下がっていた。  ルパンの目に恋也はどこか寂しそうな表情を浮かべている。  動物で表すと兎のような、今から捨てられる猫や犬みたいな表情をしていた。 「合わせてくれるだけでも、有り難いってもんよ」  組んでいた脚を下ろして、ルパンはグラスを片手に立ち上がり恋也の隣に腰掛ける。 恋也の肩に腕を回して半分抱きしめるような体勢になり、ゆっくりと右手を恋也の目の前に持っていき、恋也の前で右手に持っているグラスを、ほんの少しだけ傾けた。  氷を見せ付けるかの様に。 「合わせてるって訳じゃ……」  目を逸らしながら呟いて、目の前に持ってこられたグラスを見つめ、球体の氷を見つめている。  カラン、カラン、と氷が音を立ててグラスに当たっているのを、ただぼんやりと眺めていた。  いや、ぼんやりとしか出来なかった。  はぁ、はぁ、と息遣いを荒くしてとろんとした目で、氷を見つめていた。  それが分かるとルパンは肩を揺らしながら笑い、口を動かす。 「この酒じゃなく、この氷に『何か』が入っていたら、どうする?」  球体の氷に薬を仕込むのは簡単で、それを飲ませるのも簡単なことだ。 ただ、自分が薬入りの氷を取らなければ良いだけの話だ。
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