第1章

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 恋也は汗を流して教室に入ってきた教師を見つめるが、『教師』としてそこに立っている男は、ホワイトボードに字を書き始めた。 「西山快刀(にしやまかいと)です。まだ大学を出たばかりで、教師として初めてなので、色々宜しくお願いします」  挨拶をする快刀に対し、恋也は頭を抱えたくなった。 「科目は数学ですが、ある程度は出来るので気軽に質問してください」  笑顔に話す快刀には関わらないようにしようと思うのだった。  ―学校 図書館にて―  「あの先生イケメンだったな!」 「そこまでテンション上げる必要ないと思うけど」 「何言ってんだよ! 恋也良いか、よく聞け! イケメンという事は、つまり……モテる、恋也と張り合えるレベルだって、アレは」 「いや別に俺は張り合いたいとは思ってないし、自分が格好良いとも思ってない」  溜息混じりに返答を返す恋也に友人――守烙坐星汰(かみらくざせいた)は分かっていないと言うように、恋也が使っている机に身を乗り出して、恋也に指を差した。 「分かってないな、恋也は校内で誰と付き合いたいランキング毎月1位の癖に、自分がイケメンじゃないとでも!?」 「そうだとしても、俺はそんなのに興味はない」  実際誰が行ったかも分からないアンケート結果など、興味が無い。 一言でそう言ってしまったのだが、大体新聞部や写真部が共同でアンケートを行ったのだろうと予想ぐらいは出来、それ以上言うつもりもなく、席を立ち先に帰ると星汰に告げた。 「ちょっと待てって! 俺を置いていくのか! 1人でこの館内の本の整理をしろってか!」 「喋ってる暇あるならさっさとやれ」  鞄を片手で持って、もう片方の手でヒラヒラと手を振っては図書館を後にしようとする。 ドアの前で一旦立ち止まり、後ろに振り返って「1人で終らせたら、今度飯でも奢ってやる」と軽く微笑みながら、今度こそ図書館を後にした。 「そんなんだから、人気あるって知らないのか」  1人ポツンと残された館内で呟けば、再び本の整理を始めた。  ―廊下にて― 「楽しそうじゃねぇか」  不意に右から声がした。 曲がり角になっているので、角に隠れているのだろう。   「別に、楽しいって程のものじゃない」  相手は誰だか分かっているので、あまり名前を言わずに返答する。 「色んな奴にモテてる癖に」 「お前もそれを言うか」
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