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俺には信じられない言葉だった。
今俺がしたいことなんて1つしかないのに、それがもう知られている。
嬉しいような怖いような気持ちになる。
「見透かしてはないけど、そう言うなら天刀は退室しろ。隣の部屋自由に使って良いから」
いえーい!と言う声と共にベッドから起き上がって、隣の部屋俺には良く見えなかったが、スキップをしながら隣の部屋に向かう先輩を見つめて、そこまで嬉しい程隣の部屋に何かあるのだろうかと、思ってはすぐに視線を床に戻す。
カチャン、とドアが閉まってお互い沈黙、という訳でもなく恋也さんが「さっき天刀が入っていった部屋、完全防音だからこっちの声聞こえない」と耳打ちしてくる。
「何か言いたい事でもあるなら、聞くけど……?」
「特に、ないです」
「両手、出してみて」
言われたとおり、ポケットの中から両手を出すと恋也さんは俺の手の甲を掴んで、自分の鼻に近づけた。
「なっ、何してるんですか!?」
躊躇う事無くクンクンと臭いを嗅いで、そっと手を離した。
「良太君。さっき俺は言いたい事があるなら聞くって言ったのに、何で言わなかった?」
「言いたい事なんて……」
ない、そう言おうとした時だった。
我慢していたものがまたジュワっと溢れ出て、制服のズボンを濡らした。
両手で押さえないと、と思った矢先、恋也さんが俺の両手を掴んだ。
「ある、んだろ?言ってみ、怒らないから」
「やっ、あっ……でっ」
中々言わない俺の両手を片手で掴んで、残りの手で器用に正座の体勢から脚を開けた体勢にしていく。
前を押さえる事が出来ないので、脚をくっつけて、尿意を耐える。
自分でも分かる程、涙が出てきて、恥ずかしさと罪悪感が募っていた。
正直にトイレに行きたい、と言ってしまいたい。
けれど、初対面でいきなりそんな事を言うのは常識知らずだと、俺は思う。
しかも名門校の賢い人に会うのに、いきなりトイレを貸してなんて失礼だ、と思っている。
だから言えない。
恋也さんは俺の後ろから抱きしめるような形になって、掴んでいる腕を離した。
「前を押さえようとしない」
後ろから言われて前にあった手を反射的に違うところに置く。
――出したい出したい、言いたい。
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