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昼休み。
何となく人気が少ないトイレに向かってみた。
もしかしたら居るかも知れないから。
――ペリペリ。
当たりだ。
先輩は俺の目の前の個室でアレを剥がして、後始末をしている最中なんだろう。
「……いくらなんでも、そのまま来たのはマズかったな。替えの服はあるけど……」
ドア越しに聞こえるセリフが何を意味し、何を示しているのかさっぱり分からない。
「取り合えず、これはゴミ箱に捨てよう。さすがにおねしょしたやつ、なんて思われないだろうし……うん」
まさか、そんな事だったとは思わなかったが、良い事が聞けた気がする。
1人で納得している先輩には悪いけれども、先輩の秘密を知って良い気分になる。
このまま熱も吹き飛んでくれないだろうか。
「ついでにトイレしていくか」
立ち上がる音と言葉が一緒で、ファスナーが下がる音がして数秒、ジョボボボと便器に尿が落ちる音が響いた。
ドア越しでもよく聞こえるので俺は一体何をしているのだろうと、暫く考え込んでしまう。
人の排尿なんて盗み聞きする趣味はない。
でも、ドアの前から離れなれない。
兄ちゃんも同じように用を足すのかな、なんて思ってはほんのり頬を染める。
「はぁー……」
終ったんだろう。
水が流れる音と共に、ドアがキィと開いた。
「す……すが、の……君」
一歩後ろに下がった先輩を見て俺がやってしまった事を改めて理解する。
「す、すみません! そういうつもりじゃなくて……」
――何がそういうつもりじゃないだ。
深く頭を下げて何を言われるのか分からない、と思っていれば上から「誰にも言わないなら、別に知っても良いよ」と言われる。
正直何を言っているのか分からない。
「僕も性格が変わってさ……。恋也に会ってから色々変わったよ」
「恋也?」
誰かは知らないが、あの先輩が変わったのだから、よっぽど偉人か、金持ちなんだろう。
なんてアホらしい俺の予測は全くなんの役にも立たなかった。
「家も一般的で、特に金持ちでもないけど、恋也自体が大人って言った方が、分かりやすい、と思う」
ただの一般人。
俺と同じ一般人が、先輩の性格を変えた。
可笑しな話だけど、別にそこまで可笑しくはない。
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