背中

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――おしっこしたい……。 さっきからそればかりで、授業内容など全く頭に入っていない。 六時間目、特に生徒が「あと何分だ」と騒ぐ時間帯。 そんな時間帯の中、1人の男子生徒が俯きながら必死に欲求を耐える。 モジモジ。 そんな音すら聞こえてきそうなほど、切羽詰っている。 残り、5分なのだが、その5分がまた長い。 パンパンに張っている膀胱をゆっくりと撫で、自分の我慢している量を想像する。 ペットボトルのどれ位、いや、おまるから溢れる……。 頭の中で、そんな事を考えては、脚をくっつけてノートに向かっている。 ノートに書かれている文字は「おしっこ」「トイレ」「出る」「我慢」「あと10分」「出る」等ばかりだった。 それほど、この少年――菅野良太はトイレに行きたい欲求を持っていた。 だが、良太は学校のトイレには行けない。 理由は恥ずかしいから、と思春期という理由である。 ――おしっこ、どこでしよう……。 完全に野外でする前提でどこでしようかと考えていた。 けれど、下校時間と被ってしまうと他校の生徒や、同じ学校の生徒に見られる可能性がある。 それを避けたいと思っている良太は、一度、学校の中庭でこっそり用を足そうと長い道を歩いていれば、まさかの中庭に3年が居て、その人の前で我慢できずに漏らしたという事があった。 それ以来、良太は学校の中庭でも用を足さなくなった。 ――家までもたないって。 そんな事を思っていればいつの間にか授業は終わっており、HRが始まった。 すぐHRが終って各自解散となった今、良太は携帯を取り出して兄にメールを送った。 『体育で足痛めて歩くの辛いから、迎えに来て』 今日兄は大学が休みで、ずっと家にいるのを思い出し、バイクや車で迎えに来てもらえばすぐに家に着くだろうと簡単に考えていたのだ。
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