第12話

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   「退院したら、二人でゆっくりしたい」 「そうね」 友香は子供をあやすように、俺の頭を優しく撫でる。 「一緒に暮らしたい」 そう言うと、友香はクスリと声を出して笑った。 「短い間だったけど、わたし達、一緒に暮らしていたのよ」 ああ、そうか。 過去にそんな幸せな時間があったのか。 その余韻に浸るように目を閉じると、友香がグイと俺の肩を押して距離を取った。 「陸、もしも記憶が戻ったとしても、これだけは、信じて欲しいの」 緊張を含んだ声色に、何を言うのだろうと友香を見詰めた。 真剣な眼差しが俺を捕らえて、その唇が意を決したようにゆっくりと開く。
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