そのさん

4/4
前へ
/4ページ
次へ
「いやちょっと待て、黒澤ちゃんに頼めばいけるかもしれないぞ。ちょっと電話してみるわ。」 社長はすぐに携帯電話をすすすっと操作し、電話をかけ始めた。 「大丈夫みたいだ。バイト君を向かわせるとさ。若いクロワッさんくんが来るぞ。」 「あーいましたね。わかりました。俺が受け取りますよ。」 そんなの最初からわかってるっての。忙しくしたのも、俺が口コミサイトいろんなやつに紹介して、感想書きまくってもらったんだから。断言する、やらせじゃないぞ。ちゃんとした意見を口コミしろって言ったまでだからな。 「お、今日クロワッサン食べれるんですか?早めに帰って来てラッキーだったな。」同期の岡本が嬉しそうに笑いながらOKサインを出す。岡本にも口コミやってもらってたんだっけな。 「あ、お昼の前に少し外いかないか。今時計台のところで催し物やってるだろ。あれ今日で最終日なんだ。まだクロワッさん来ないし、みんなで見に行こうぜ。」 「そうだな。じゃあ、社長。少し出てきます。ありがとうございます。」 今フロアーにいる同僚4人で少し浮かれ気味に下へ向かった。俺は別の意味で楽しみでしかたなかった。 俺が彼に再び会うのは、この10分後のことである。 「何かいい匂いしますね。」 岡本がエレベーターホールに漂う香りにいい反応を見せた。そう、この匂い。また会えたね。かわいいかわいいクロワッさん。 俺が彼に濡れ衣を着せるのは、この3分後の事である。 「ごめんなさい。コーヒーかかってないんで、大丈夫ですから。」 彼の目が涙目なのを見て、その涙が濡れているのを想像し、とても美しいと感じた。この顔をもっと汚してやりたい。 エレベーターが21階に到着し、俺は彼を今だけ解放することにした。 「ご利用ありがとうございます。またのご注文をお待ちしております。」 彼の体が少し震えているのを感じだが、俺は逃がすつもりはないと心に決めていた。 「また会えるよ、ここでね。」 エレベーターは完全に閉まったが、俺の声は彼にきっと届いていたことだろう。 さて、これからどう、彼のことを追い詰めてやろうか。 色っぽい意味でだから、それはご心配なくね。 こういう子に会えるの、俺は待ってたんだよ、ずっとな。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加