そのさん

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「ったく、何でこんな時間まで捕まらないんだよ。」 俺は焦っていた。今日最終段階の打ち合わせのはずの取引先と電話が全く捕まらない。こんなに電話してんのに、着信履歴どんだけ俺の番号で埋めれば気が済むんだよ。うわ、こんな時に信号赤かよ。今日通勤の時も電車とまるし今日は足止めされまくりで参るわ。雨も若干降ってるし、折り畳み傘この前壊れたしタイミング最悪だな。 あれ、向かいの信号のとこなんか誰かいるな、やっぱ今度の休みにでもコンタクト買い替えるべきだな。あいつは週末仕事だったし、この前遊んだやつも連絡全然来ないし、まあ遊ぶ相手なんていくらでもいるし、今度の休みは自分のために使おう。 はあ、やっと青になった。あれ、やっぱ人いるじゃん、誰だ。年寄りのばあさんか。何してんだあれ、何かつっかかってんのか。うわ、危ね。ぶつかりそうになってんじゃん。誰か助け… 「プルルルル…」 お、電話来た。この着信音は社長だな、やべ、連絡つかないことバレたか。とりあえず出てなんとか釈明をせねば。 「はい、宮下です。社長すみません、実は先方と…え?あ…そうなんですか。良かった。さっきから何度も電話していたところなんですよ。ええ。はい。あ、その件はこちらです…」 やべ、ぶつかりそうになった。ばあちゃんすまない、ちょっと今電話が…あ、なんだあいつ。こっち見てる。多分こっち見てるよな。大通り沿いにある確か社長の知り合いが経営しているカフェだった気がする。雨で曇った窓から放たれる何者かの視線に俺の意識は向けられた。 目大きいな、女の子か。いや違うな、女顔だけど男だな。ふーん、かわいいじゃん。ああいう子、あんまり相手しないけど、何にも知りませんみたいな顔して、実はいろんなことわかってますけど何かって世の中のこと笑ってたりするんじゃねーのか。でもそういう子、嫌いじゃないぜ。 なんだよ、まだこっち見てるな。いや、もしかしてばあちゃんのこと見てるんじゃ。俺は少し後ろを振り返る。やっぱりタイヤが道路の脇に詰まってんじゃん。ああ、電話どうしよう。
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