そのさん

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「おばあちゃん、ひっかかっちゃったの?」 「あ、ごめんなさいね。さっきからやってるんだけどねえ。」 「お手伝いしますよ。」 俺は電話がそのまま繋がっているのを一瞬忘れそうになった。 「ありがとうね。お兄さん。」「いえいえ、お安いご用ですよ。」 「宮下!どうした!トラブルか?」やべ、電話保留になってなかったのか。「あ、社長すみません。ちょっとお年寄りを…いや、何でもないです。それでですね…」 俺は先程の目線をもう一度確認したかったが、明日またゆっくり物色しようと心に決め、社長との電話を続けた。 そして俺が彼と出会ったのは、違うな、俺が一方的に彼を知ったのはこの瞬間だった。 2回目に会ったのは、会社のエレベーターホールだった。それは偶然で、でも俺にとっては必然だった。俺は、あれから何度かあのカフェにその目線の主を見に行った。土日も働く何とも真面目な青年のようだ。仕事終わりは少し奥の席でホットミルクとクロワッサンを頼んで遅くまで残っているそうだ。よっぽどこの店が好きなんだな、ますますかわいい。でも見た目かなり若く見えるし、高校生くらいかと焦ったが、どうやら20歳くらいだという情報を手に入れた。社長の知り合いの店で働いているなんて、なんてラッキーなんだ。あのお店昔から好きだし、何かしらさらっと質問すれば、すんなり答えてくれるしな。俺は少し作戦を思いついた。 「社長、今日あそこのお店のクロワッサン注文しません?」 「あー林のとこのか?いいよいいよ頼んどいてやる。あ、でも今日は忙しいかもしれないな。前に言ってたんだよ、最近クロワッサンが口コミサイト?みたいなので評判になったとかで。」 「そうですか…残念ですね…」困った顔をすれば、何とかしたいと思って貰える、俺は得な顔の持ち主である。
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