残像

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彼のマンションの鍵を借りて、彼の部屋で待つ。 デートはできなかったけれど……その「特別」感は私を安心させてくれる。 耳朶にぶら下がるピアスに触れる、亨の唇を思い出すとじわりと頬が熱を帯びた。 ……実家にいるのは元旦までにして、早く帰ろうかな。 そうすれば、実家から帰ったって報告に電話できるし、そしたら亨と初詣に行けるかもしれない。 せっかく実家に帰ってきたというのに、こんなことばかり考えている私は……色ボケしてる。 うん、自覚はある。 ぺちぺち、とコットンでやや強めに肌を叩いた。 亨のことばかり考えて、腐抜けている場合ではない。 颯介くんのことも心配だし。 お正月の三が日は、ご迷惑だろうし……連絡を入れて4日以降で仕事始めまでに一度、新年のあいさつも兼ねて家を訪ねてみよう。 「はるひー。みかんあるけど食べるー?」 階段の下から、部屋の扉を閉めているにもかかわらず母の大きな声は良く届く。 先ほど、私が機嫌を損ねたことを気にしているのだ。 「はぁい!食べる!」 私も少し、大人げないし。 仲直りしてあげることにして、1階に降りて行った。
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